ブラジルが生成AIとデジタル技術をめぐる大きな転機を迎えている。企業部門ではAI導入が急速に進む一方で、政治・社会的課題への対応が問われている状況だ。 まず企業の側面から見ると、ブラジルの経営層がAIに強気の投資姿勢を示している。国際物流企業DPワールドの調査によれば、ブラジルの供給チェーン・ロジスティクス関連の経営幹部142人中、66%がAIを向こう1~3年の事業成長の主要ドライバーの上位3つに位置付けている。これは世界平均の43%を大きく上回る水準だ。こうした企業のAI活用への強い関心が、6月にはジョインビルで「ブラジル人工知能サミット」が開催され、全土から4,500人以上が参加し、10カ国の代表団も集まるなど、地域で最大級のAIイベントへと成長させている。 一方で、ブラジルは2024年にAI規制法案を上院で承認したものの、下院での審議が進まないという課題を抱えている。この法案はEUのAI法を参考にしており、合成コンテンツへの透かしの表示義務なども含まれているが、著作権の取り扱いや高リスク分類の定義について政治的合意が取れていない。規制の空白が具体的な問題として表面化したのが、AI生成インフルエンサーの「ドナ・マリア」事例だ。これは政治活動に利用された深偽動画であり、10月の大統領選に向けて、生成AIツールの悪用を防ぐことが急務となっている。 同国が2024年7月に発表した「全員のためのAI」というテーマの国家計画では、高性能コンピューティング基盤の構築、人材育成、公共サービス改善など五つの柱を設定している。急速な技術導入と社会への責任あるAI展開のバランスをどう取るかが、ブラジルの次の課題となりそうだ。